機龍警察


 マイク・レズニック氏のスター・シップシリーズの続編が出ていたの喜び勇んで買い込んだ時、端書きの設定に惹かれた為、久々に日本人作家さんの小説を購入。



機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)



 デビュー作というのを見て新人作家さんを想定して読んでいたら…実はアニメ脚本ではベテランの方だったり。


月村了衛氏」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%88%E6%9D%91%E4%BA%86%E8%A1%9B
→味ッ子、28号FX、ウテナ、天地無用、NOIR…まぁイロイロですな。


 設定的には、現実に準じた日本が舞台ですが、小説上では機龍と呼ばれる有人型二足歩行兵器が戦場で運用されており、それが犯罪やテロにも使われるという、機動警察パトレイバーに類似した設定。
 特車二課と似た様な理由で警視庁に創設された、最新型の機龍を3機有する特捜部が主役なのも、それに準じています。
 ついでに、その特捜部が警察仲間から忌み嫌われているのも準じて…いや、特車二課は厄介者扱いでも、一応、仲間ではあったので違うか。
 この小説での特捜部は、警察であるにもかかわらず、要請に応えて事件現場に出張ってきただけで同僚に罵倒されてるので、二課より酷いです。
 何故、そんな事になっているかと言えば…一つは、特捜部が発足する原動力となったのが、管轄の縄張り争いで被害者(小学生の男の子)を公衆の面前で見殺しにする事となった、警察にとって近代最大の汚点と言われる事件である事。
 次に、特捜部のトップが、元外務官僚の“よそ者”だという事。
 そして、決定的なのが、特捜部が特殊な最新型の機龍の運用上、警官ではないプロフェッショナルな傭兵を3人、機龍の搭乗員として雇用している事です。
 ロシア人の元警官、エリート傭兵、得体の知れない無表情ッ娘…全員外国人、そりゃ、嫌われます。

 ついでに、警察各所から引っ張ってこられたその他の構成員も、階級が二階級は特進しているので、嫉妬と憎悪が絡んで、保守的な警察組織からは殆ど協力が得られない所か、ガセ情報まで流される事もあるという酷さ。


 …というか、この小説に出てくる警察の質ときたら、平成ライダーのアギトレベルです。
 最初に出てくるSATのおじさん以外は、基本的に特捜部に嫌がらせをする人々しか出てきません。
 下手すると特捜部への嫌がらせになるなら、犯罪に目を瞑る事すら厭わない勢い。


 元警官の人に取材して書いたとか後書きにありましたが、コレ大丈夫だったのかしらん。


 コンセプトは面白いし、主役となる二足歩行メカ、機龍の設定は興味が惹かれます。
 ボトムズとか、パトレイバー好きなんで。


※注意
→以下の文章には、全体としてピンぼけな感想と印象が綴られていますが、細部に関するちまちましたネタバレ的なものが混入されている恐れアリマス。
 0から作品を楽しみたい方は目を通さない方が良いでしょう。






・機龍の全高は大体3.5mでボトムズのATよりやや大きい位、疾走中にこけた位で火は吹かない。


・機龍には、戦車と同じく世代があり、旧来の世代はちょっと大きい。


・新しい世代の機龍には若干のサイズ調整機能があり、体を縮める事である程度は建造物内での戦闘に対応可能。


・特捜部の有する3機の機龍は、他の最新型機龍に比しても世代が2、3世代は上と目されるチート性能。
 →他がファッティ、スコープドッグだとすれば、PS専用機、あるいは秘密結社製ATクラス…或いは、ザク、旧ザク、初代ジムでがんばっている所に、アレックスを持ち込んでる感じっぽく言われてます。


・又、機龍の武装は手にアタッチメントがついていて、通常型は外装式で武器はメンテで付け替えるが、特捜部が使っている最新型は内装式のアタッチメントを採用している為、現場で運用中に付け替えできるらしい。


・機龍の中には、パイロットの体がみっしり詰まっているので、ほぼ、撃破イコールパイロットの死亡。


・機龍の機体コードには妖精の名前をつけるのが国際的な慣例になっている…らしい?


 小説の全体的な印象としては…詰め込み過ぎ、尻切れトンボ。
 終わり方が男坂みたいな終わり方だしなぁ。
 「機龍警察 1」とか、ナンバリングがついて続巻が出るのなら納得しますけども。
 文の描写はライトノベルというか、見せ方、誇張表現の感覚は何となくアニメ的な感じです。


 最初に起きたテロ事件の実行犯を追いながら、事件裏の繋がりと調査し、メインとなる特捜部所属の3人の傭兵パイロット達の過去を若干明かしつつ、更には特捜部の整備班や捜査担当者のエピソードを盛り込みつつ、若干、機龍の戦闘シーンを入れる。


 …この小説のページ、ハヤカワの外国人作家のちょっと厚めの小説に比べると、1/2以下の厚みしかありません。
 それだけのボリュームでこれだけのネタを全てまとめようとするのはかなり無謀だと思います…これだけの展開と設定を十分に消化したかったら、それこそ(ページ数は兎も角)2、3冊は巻数が欲しい所。


 しかし…特捜部が有する、最強という触れ込みの機龍3機に関しては、お話というか、組織の都合上というか、基本、既に作戦実行前に負けている状態で出撃する為、今ひとつ、触れ込み程強く感じられません。
 制限時間はあるとはいえ、従来機は使えないモビルトレースシステムが使えて、反応速度が数倍になるっていうのは異常な性能だとは思うんですが。


 その編は、メカアクション物と言うよりは陰謀物にお話が偏っているからと言えるかも知れませんけども。


 キャラクターに関しては、設定と能力はパイロット連中に関しては一部、割と漫画、アニメ、ライトノベル寄りの超人設定。
 ある意味その辺が、架空とはいえ、少しリアリティ路線を狙った設定少し浮いているかも…
 まぁ、最近の超人バトルがウリのライトノベルに比べれば可愛い物だと思いますが。


・過去に一度は追放された警察組織への愛憎が振り切れないロシア人。
 いつもかっちりしたスーツを着ている。
 クールに装う割には、内面はやたらと思い悩むタイプで、たまに熱血青年になったり。
 機龍の操縦スキル自体は、元々専門じゃないので3人の中では最弱っぽい。
 SATのパイロットから他の仲間には内緒で、“よう、ご同輩”的な符丁で挨拶をされてちょっと喜んだり、性格的には一番可愛げがあります。
 この人何歳だったんだろ…


・いつでも人を食った様な態度を崩さないエリート傭兵。
 白髪でラフな格好をしている。
 別に年寄りという程の年齢では無いみたい。
 つかみ所の無い行動は全て計算尽くで、自分の傭兵としての価値を上げる為に行っている男。
 しかし、全てをビジネスと割り切ろうとしている割には、その論理では割り切れない利他行為をして、引きずっている描写もあったり。
 今回はこの人の過去が一番事件に関わりが深かったり。


・無口で無表情な娘ッ子。
 装備する銃器に自由裁量が許されている特捜部の特権で、S&W M629(6in)などという大砲を装備していたりする。
 三人のパイロットの中では一番、経歴がオカシイ…というか、本来治安組織に居てはいけない人間。
 自殺願望持ちで、毎朝、カミソリを手にあてる代わりに銃で頭をぶち抜こうとしたり、任務中に自分が殉職、というか戦死する妄想を弄んだり…かなりイカレてます。
 …単に自殺願望と自己陶酔癖を両方患っているだけかも知れませんが。
 三人の中では一番戦闘力がずば抜けて高い、というよりは、一人だけ別世界の住人です。
 バイクスタント決めながら44口径ぶっぱなして、敵を全部ヘッドショットでしとめる様なヤツは人間じゃありません。
 あ…もしも、本当はNOIRデシタ!っていう経歴なら何でもアリか。


 ついでに、エライ人も説明。


・特捜部のトップをしている元外務官僚。
 いつでもどこでもシガリロ(細い葉巻)をふかしまくる、このご時世に最悪の上司。
 なんだか、異常な切れ者…らしいのですが、今回の話では状況が四面楚歌過ぎてどれ程凄いのかよく分からなかったり。
 …いや、構成員も組織もクレイジーな特捜部を存続させているだけで多分凄い人なんでしょう。


・その下の中間管理職二人。
 シガリロ官僚に心酔してるっぽい人と、その同期で特捜部に居るのにやたらと特捜部に批判的な人。


 その他、エピソード描写のある人達。


・天才整備士のお姉さん。
 ブラックボックスの多い特捜部の機龍は他では整備できないらしく、特捜部には専用の整備班がいて、そこのトップがこの人。
 普通は小娘がトップやってたらやっかまれそうですが、技術屋は腕が全てらしく、結構敬われてる感じ。
 整備長室に寝床を持ち込み、半ば仕事場に住みつくという、タコ部屋のプログラマーみたいに荒んだ生活を厭わない程整備に取り憑かれている。
 昔家族が巻き込まれた事件のせいで、無口っ子のパイロットを死ぬ程恨んでいる、らしい。


・捜査担当員A、B。
 それぞれ現状の警察組織に幻滅し、理想を追求して特捜部に流れてきた…らしい、同期二人組。
 真っ直ぐなAに、昔はそうとう暴れてましたというB。
 この二人のエピソードを読む限り、特捜部に入るという事は、警察組織への裏切り、背信行為に等しい犯罪行為と認識されてるっぽいです。
 …特捜部っていうのは対宇宙海賊課デスカ。


 とりあえず、色々と惜しい肝心の小説でした。
 最近のものとして見ると渋すぎるかも知れませんけど、アニメにしたら結構面白いかもなぁ。